2014年11月30日

チョウよ花よと育てられた(大橋直久)

スミス夫妻は1君が当然引き上げるものと決め込んでいた。

しかしウイスキーをガブ飲みし、大いに気炎をあげていた1君は、いっこうにスミス邸を辞する気配がない。

やれ今から自分のアパートへ帰るのは面倒だ、やれもう上と下のまぶたがくっついてしまって目を開いていられないのとこたくを並べ、しかもさっさと勝手知ったる寝室のドアを荒々しく開けて、ダブル・ベッドにダイビングするや、バターン・グーの状態になってしまった。

スミス夫妻は、これにはあきれ果てると同時に1君に対して強い憤りを感じた。

グラスゴーからの女性と1君を同室にするわけにはむろんゆかぬので、この女性はスミス夫人と一緒にこの家の夫婦が使用しているダブル・ベッドにもぐり込んだ。

哀れなスミス氏は、ソファで一晩をあかしたという。

こういう話はすぐに他人の耳に入る。

ロンドン支店長で1君の学校の先輩でもあるMさんは、

「いくら仕事ができても1という奴は失格だ! 奴は六人姉妹の真ん中にたった一人の男児として生まれ、両親をはじめ周囲から、ボクちゃん、ボクちゃんなんぞとチョウよ花よと育てられたもんだから、いくつになっても甘えが消えぬナ、誠にけしからん!!」

と私にこのストーリーを話してくれたものだった。

1君はその後、スミス家へは出入り差し止めとなった由だが、これは当然のことだろう。

大橋直久(ホスピタルマナー)


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Posted by 大橋直久 at 01:06 │大橋直久